知っておきたい刀剣に関するマナー

今回は、刀剣に関する基本的なマナーを紹介します!
三種の神器に草薙の剣があるように、刀剣は長い歴史の中で日本人にとって単なる刃物としてでは語れないものです。その刀剣を扱うには様々なマナーが存在します。

例えば、刀剣が売っている刀剣屋さん、刀を手に取って見ることが出来る刀剣鑑賞会、そして刀を使った武道や殺陣の稽古場。
そういったところではどのようなマナーがあるのでしょうか。

 

1.はじめに

刀剣は単なる刃物ではない
刀を作る職人のことを「刀工」「刀鍛冶」と呼びますが、「刀匠(とうしょう)」と呼ぶこともあり、その言葉に刀剣を作ることの技術や仕事への敬意を感じます。

職人達が作刀をする鍛錬所には注連縄(しめなわ)が張り巡らされ、不浄なるものの立ち入りを拒み、その場所が神聖な場所であることを示しています。
鍛錬所には必ず神棚があります。

職人は作業にあたり、自身の祖神や守護神に祈りを捧げ、作業の無事完成と共に、自分の持てる技以上の成果を期待し、神々にその助力を祈ります。

鍛刀作業には火と風、そして水が必要不可欠ですが、その火は神前の灯明(とうみょう)から戴いたり、切り火を使ったり和釘を打って発する熱から取ったりといった清浄な火種を用います。
焼き入れの水が入った水槽を船といいますが、ここにも注連縄をめぐらせます。
鎚や金敷等の道具をまたぐことは固く禁じられ、火力アップに欠かせない鞴(ふいご)という装置の周りにも注連縄を。
幕末以降には、□□神社の神火・神水を以って焼き入れたなどと銘入れされた刀剣がしばしば見られますが、それは御神威が付与されていると強調してのことでしょう。

このような状況下で作る刀剣なので、刀剣は単なる刃物ではなく神聖なものであると言えるでしょう。

 

では、そんな刀剣に接する際にはどのようなマナーがあるのかを紹介していきます。

 

.刀剣鑑賞会や刀剣屋さんでのマナー

 

21.刀剣鑑賞会とは

各地で開催されている観賞会で、刀剣を実際に手に取って鑑賞することが出来ます。
刀剣は光の当て方や角度で見え方が変わってくるので、ガラスケースの中に置かれているのを見るだけでは全部を見ることは出来ません。

観賞会では、並ばれた刀を実際に手に取って電球の光に当てながら鑑賞します。

刀身の棟側にある焼きの入っていない黒く見えるところに、地鉄という鍛え肌の模様があるのですが、地鉄は光を当てることでようやく見えてくる模様なのです。
地鉄をよく鑑賞することで、その刀剣が作られた地域や刀工の個性を見ることが出来ます。

刀剣鑑賞会は刀に触れたことがない初心者の方でも参加出来ることも多く、初心者のための鑑賞講座なども開催しているので、是非行ってみて、歴史ある刀剣に触れてみましょう!

 

22.刀剣鑑賞のマナー

1.刀を拝見する前は礼をする。

「礼に始まり礼に終わる」という言葉がありますが、これは刀剣鑑賞会でも重要なことです。
これはその刀を作った刀匠、その刀を現代まで大切に伝え残してきた先人、そして刀に対しての礼です。
武術の稽古でも刀を扱う稽古の前と終わりに必ず「刀礼」をします。


2.刀剣を前にして喋らない

鑑賞会や刀剣屋さんでよく言われるのが、刀の前で喋らないということです。
刀は鉄で出来ているので、空気や水が原因で錆びてしまいます。

特別に鉄を水に濡らさなくても空気中に含まれる水分、即ち湿度がある程度高くなると鉄の表面に目に見えない薄い水の膜が出来て錆びてしまうのです。
そのため、喋った時のわずかな唾が刀剣の錆の原因になってしまいます。

3.刀身を直接手で触らないこと

汗ばんだ手で刀身に触れると、手についた塩分が付着してしまいます。
塩分には吸湿性があり湿度がある程度高いと水を吸います。吸湿によって得られた僅かな水分で刀が錆びてしまいます。

鑑賞会では袱紗(ふくさ)などの布を使って直接手で刀身に触れないように鑑賞します。

4.腕時計やアクセサリーは外しておく

鑑賞前に腕時計やアクセサリー、指輪は結婚指輪であっても外しておきます。
指輪をした状態で茎を握ると指輪が刀身に触れて傷を付けてしまう恐れがあります。

 

5.刀の良し悪しを口にしない

刀を前に、その刀の批評するのは大変失礼になりますのでやめましょう。
鑑賞会では、愛刀家の刀を借りていることもあるので、聞こえてしまっては大変です!

 

6.お店の品物に勝手に触らない

これは当たり前のことなのですが、刀剣屋さんで刀掛けに掛けてある刀を見るだけでなく勝手に手に取り抜いてしまう人が中にはいるようです。
武道具屋さんの模擬刀の場合、自由に手に取って抜いた感触を見ていいですよというお店もありますが、お店によっては模擬刀でも勝手に手に取るべからずと張り紙がしてあるのを見たことがあります。

刀剣の刀身を見たかったらお店の人に一声かけましょう。
購入前のその刀はお店のものなので、持ち主である店主に扱ってもらうのが良いでしょう。
勝手に抜き、それでその刀を傷つけてしまっては大変です。

3.稽古中のマナー

次は稽古の時に心得ておきたいことをいくつか紹介致します。

1.刀をまたいではいけない

日本文化では、踏んではいけないもの、またいではいけないといわれているものがたくさんありますね。
理由は様々ですが、例えば畳の縁は踏んではいけないといわれます。これは、畳の縁はそれぞれ意味のある空間の結界であるとされているからです。
お客様をおもてなしするための座布団も踏んではいけないですね。

そして刀をはじめ木刀、竹刀もまたいだり踏んだりしてはいけないものです。鍛冶屋さんが神様に祈りを捧げて作刀を行うその自分の道具はまたいではならないように、作刀された刀もまた、またいだり踏んだりするのはよくないことです。これは他人の刀はもちろんのことですが、自分の刀もまたぐのはよくないでしょう。

誰かの刀が通りたいところにあるとついつい飛び越えてしまいたくなりますが、堪えて、避けましょう。邪魔なところに置いている人も悪いのですが、それでもまたぐのはやめましょう。

 

2.他人の刀を勝手に触らない

これも知らないとやってしまいがちです。刀は「武士の魂」と呼ばれるほど武士にとってはとても大切なものでした。例えば江戸時代では武士の来客の際にその刀を預かる時、その家の女性が直接手では触らずに袱紗を使って持ち、刀掛けまで持っていきました。
現代でも、やはり自分の大事な稽古道具の刀を勝手に触られ、抜かれたりするのは気持ちのいいことではないと思います。

とはいえ、他人の刀を拝見したい時があると思います。そんな時は持ち主に一声掛けて許可をもらえれば良いでしょう。


3.
刀を杖にしない

刀を杖にするポーズは時代劇などでもよく目にしますが、刀の鞘先とはいえ床につけ、杖のようによりかかってしまうのもやはりよくないでしょう。それをすると鞘の先がやや剝がれてしまいます。
昔撮られた武士の肖像画を見ると、刀を地面につけているように見えて実は足の甲に乗せているという所作も見られますので、刀を地面につけないように気を付けていたというのがわかります。

 

4.納刀は静かに

刀を鞘に納めることを納刀と言いますが、納刀をする時に乱暴に「バチン」と納めることはよくないです。
これも知らないとついついやってしまいますね。

その大きな理由としては、そのような納刀をしてしまうと刀に負担があり、刀の鯉口周りが傷んでしまうのです。また、柄と刀身とをつないでいる目釘にも負担がかかり、目釘が折れてしまう原因となります。目釘が折れると刀を振った時に刀身が抜けて飛んで行ってしまい事故が起こってしまう恐れがあるのです。

 

これは刀を扱う稽古場ではもちろんのこと、時代劇の現場でもまた小道具の刀でもやってはいけないことです。

しかし、時代劇では立ち廻りが映える手段として、この納刀が行われることはよくあります。このように、時代劇の世界では、敢えて刀剣のマナーに反していることもありますが、あくまで演出であると理解しておくとよいです。

まとめ

いかがだったでしょうか。
今回は刀剣のマナーについて紹介しました。
刀剣を扱う心構えや所作に加え、刀剣は錆びやすく傷も付くとてもデリケートなものであるのですね。
しかし臆することはありません!刀剣鑑賞会には初心者講座もあり刀剣の扱い方を教えてくれるので、マナーを守りながら刀剣を楽しみましょう!


【参考文献】

週刊日本刀  ディアゴスティーニジャパン