015|新撰組活劇「いつか何処かで〜沖田総司物語」|小説「大和屋焼き討ち」挿絵「一輪」お雪イラスト

沖田総司は走った。
あたかも鬼神のごとく、京の町中を駆け抜けた。
止めねば、何がなんでも止めねばならぬ。
大和屋が芹澤の要求を渋った・・・ただそれだけで・・・
いや、たとえ大和屋が倒幕志士たちの援助をしていたとしても、新撰組の局長である芹澤が京の町中で大砲を 放つなど決して許されることではない。ひいては新撰組の存続に関わる。

・・・・いや・・・
それだけではない。 総司の中には、そこまで追いつめられていた芹澤を、見て見ぬふりをしてきた自分への怒りもあった。
総司は我が眼を疑った。
大和屋の蔵が激しく黒煙を上げて燃えていた。そして、それを怯えながら遠巻きに観ている人々、そして顔を赤らめて声高だかに笑っている芹澤。
なぜ消さぬ、火消し達は何をしているのだ。
皆、芹澤を・・・いや、新撰組を恐れて手を出せずに、ただ燃えさかる炎を傍観しているしかなかったのだ。
その時、必死に叫ぶ女の声が聞こえた。

「お願い、止めてっ
あの中に子供がいるのっ
お願いっつ」

芹澤にしがみつこうとしている。だが、平山が女を抑えこんだ。
女の回りに子供が数人必死にしがみついている。 ふと自分を押さえ込む力がなくなった。 振り返ってみると、自分を容赦なく抑えていた腕が、 一人の男によってねじ上げられていた。

「この女の人が何をやったんですか」
総司は、女と子供達の前を平山からせきるように立ちふさがた。 「この女が、我々のすることに騒ぎ立てるからだ。
芹澤局長にくってかかろうとするからだ」

それを聞いていた女がキッと平山を睨んだ。

「こんなことをしてっ・・・よくも・・・」
女の言葉を総司が手で遮った。
そして、ばつの悪そうにもっていた一升徳利をグイグイ飲んでいる芹澤を凝視した。

「先生、これだけはいけません。」
そういって、芹澤の徳利を鞘で叩き割った。

「もう・・・終わりにしてください、芹澤局長。」

「なにをするかっ 局長に向かってっ」

平山が虚勢をはって叫んだ。
だが、足が震えていた。
この男が、沖田総司が本気で怒っているのがわかっていたからだ。
この男の恐ろしさは、志士たちよりも同じ隊内にいる自分たちのほうがよく知っていた。
芹澤は何も言わずに、ただ、砕き割られた徳利を見入っていた。
そして、一瞬、「ふっ・・・・」と安堵ともいえる表情を浮かべた。

「もういい、おい平山、帰るぞ」

足元がおぼつかなくなっている芹澤は、平山の肩を借りながらその場を立ち去った。
総司は去りゆく芹澤の背を、悲しげに見つめた。

・・・待っていたのかもしれない・・・
誰かが自分の暴走を止めてくれるのを
もう自分では止めることができない・・・その生き様を
 ・・・芹沢局長、遅れて申し訳ございません・・・
総司は心の中で去り行く芹沢に詫びた。

「どうしてこんなことをするのっ」

女の声に総司は振り返った。
女は総司を睨みつけた。

「申し訳ありません。」総司は深々と頭を下げた。
彼女はわかっていた、彼は止めてくれたのだと。
だが、この怒りは、新撰組がやったことへの怒りは、
総司の着ている新撰組の隊服である浅葱色の羽織に向けられていた。

「何の罪もない、子供まで・・・」
彼女は声をつまらせなが叫んだ。

「子供の名前を教えてください。」総司が尋ねた。
「そんなことあなたに関係ないでしょっ」
今さら・・・と女は総司を睨んだ。

「早くっつ」総司が一喝した。

女は一瞬たじろいだ。

「・・・勝太郎」

女から名を聞くやいなや、総司は、あとから駆けつけてきた隊士に刀を大、小預けて、
そして、火を消すために男達がもっていた水桶を頭からかぶった。 一杯、二杯・・・そして三杯。
全身水浸しになり、そして燃えさかる大和屋の蔵の中に入っていった。
女はただ呆然と立ちすくみ、総司の消えゆく姿を見送った。

挿絵「おゆき」日本髪、着物の娘イラスト