016|新撰組活劇「いつか何処かで〜沖田総司物語」|小説「大和屋焼き討ち」挿絵「炎獄」沖田総司イラスト

「勝太郎っ」
「しょうぼうっつ」
燃えさかる蔵の中はまさに灼熱・・・窯の中のような熱さである。 子供の名前を叫ぶたび、呼吸とともに熱せられた煙が喉に、そして肺の中に容赦なく飛び込んでくる。それでも、総司は子供の名前を叫び続けた。

「勝ぼうっつ」
さすがに豪商大和屋の蔵である、まだ崩れずにいてくれている。
だが、この火の勢いでは、そう長くはもつまい。

・・・どこだっ・・・どこにいるっつ

爆ぜる音の中、必死に両耳に神経を集中させた。
「勝太郎っつ」
その時、総司の耳が微かだが子供の泣き声を捕らえた。

「あついよぉ〜・・・」
「おかぁ〜ちゃん、たすけてぇ〜・・・・・」

いるっつ
どこだっつ
必死に辺りを見回した。片隅にある長持ちからだ。あの中から聞こえてくる。
総司は蓋をあけ覗き見た。

  いた・・・生きているっつ
この凄まじい煙と熱さの中、長持ちの中にいたことによって、幼い子供は生きていた。

「さあ、おいでっ、外にでるよ」
勝太郎は、初めてみるその男に必死にしがみついた。
総司は、勝太郎の体を脱いだダンダラの羽織で包んでやった。
そして、自分の体で覆うように抱え込み、出口に向かって一気に走った。
あれほどずぶ濡れにしたはずの羽織も殆ど乾き始めている。

「あついよぉ〜〜〜っ」総司の胸の中で勝太郎は泣きじゃくった。

「勝太郎は男だろ、がんばれ」

無理もない、こんな幼い子供がこの灼熱の火の中、生きていたことだけが奇跡である。

「いいか・・・なるべく小さく息をするんだ」
すでに自分は、喉も胸も熱にやられたように痛む、子供に堪えられるはずはなかった。 なるべく濡れた羽織で防御してやらねばならない。

挿絵「炎獄」火事、炎の中の沖田総司イラスト

しゃべることすら苦しい。
だが、自分が無言になれば、子供はますます恐怖に怯える。
気を少しでも逸らしてやらねばならない・・・

「しょう坊は、どうして大和屋さんの蔵の長持ちなんかに入っていたんだい」
総司はできるだけ優しく、穏やかに勝太郎に話しかけた。

「ヒッ・・ 大和屋のぼんが、風邪ひきはって・・・・・・
それで・・・・・退屈してはるゆ〜て、ゆき先生とお見舞いきたん」

・・・ゆき先生・・・ああ、あの気の強い娘さんか
総司は先ほどの娘の顔を浮かべた。

「ぼんが外では遊べんさかい、蔵の中でかくれんぼしよ〜ゆ〜て・・・」

「そうか、それで長持ちの中にかくれたのか・・・」
それがこの子の命を救ったのだ。

「・・・いっつもすぐにみつかってしもぉて
鬼になるさかい・・・ヒッ・・ヒック
そやさかい・・・あん中やったらみつからんおもうて・・・ 隠れたんや」
勝太郎は、ちょっと自慢げにニコッと笑った。

「そうか・・・・・」
総司は、幼い頃の自分と勝太郎を重ねた。

その時、突然、轟音とともに、今までなんとか持ち堪えていた柱が崩れはじめた。

「だめだ・・・ありゃ焼け落ちる」
火を消そうとやっきになっていた火消し達が叫びはじめた。
ゆきは、目をつぶりしゃがみこんだ。

  「私のせいよ・・・あの人まで・・・」

「沖田さんは、必ず戻ってきますっつ」
そういったのは、総司から刀を預かった若い隊士だった。

「でも・・・」ゆきが悲壮な声で呟く。

「ぜったいですっつ」隊士は総司の刀を強く握りしめて彼女を直視した。

その時、大和屋の蔵が激しく炎を吹き出して崩れおちた。

「ああっ」絶望の声を上げ、ゆきは顔を両手で覆った。

だが、隊士は燃えさかる炎をジッと観ていた。
そして突然叫んだ。

「沖田さんだっ」

若隊士の叫び声にゆきは、おそるおそる目を開いた。

そして・・・その先には・・・・

  轟々とうごめく炎と煙の中から沖田総司が現れた。 蔵が崩れ落ちるほんの一呼吸早く、総司は子供を抱え、外に飛び出していた。