017|新撰組活劇「いつか何処かで〜沖田総司物語」|小説「大和屋焼き討ち」挿絵「おゆき」ゆきイラスト

挿絵「おゆき」日本髪、着物の町娘イラスト

「ほら、ゆき先生だ、しょう坊」
総司は、呆然と立ちすくむゆきのそばに来た。
ゆきは、まだ目の前にいる男が現実なのか、わからずにいた。

「ゆき先生、この子に水をあげてください。」
そう言って、まだ放心状態のゆきに勝太郎を手渡した。

「先生・・・」勝太郎の暖かくやわらかな手がゆきの頬にふれた。
そして、やっとこれが夢ではないのだと確信できた。 そしてどっと涙が溢れてきた。

「よかった・・・よかったね、しょう坊っ」
そう叫び、手渡された勝太郎を思いっきり抱きしめてやった。
沖田総司は、ただやさしい眼差しでその姿を見ていた。

「有り難う、有り難うございます・・・」
ゆきは心の底から総司に感謝した。

「いえ、私達がしたことですから・・・」
総司はそう言って首を横に振った。

・・・そう、新撰組がしたことは、新撰組が始末をつける。
近いうちに必ず下るであろう「命令」のもとに。

「それよりも早くこの子に水を、そうとう乾いている」

ゆきはあわてて勝太郎に柄杓で水を飲ませてやった。
それを確認して総司は自分も側にあった桶の水を一気に喉に流し込んだ。
そして、おもいっきり吐き出した。
ゆきは驚いて総司に駆け寄った。
総司は、手で大丈夫と・・・いう仕草をし、背をさすろうとするゆきを制した。
総司が吐き出した水には、炎に舞い散っていたであろう煤が、黒く混じっていた。 そして、今度は乾きを潤すための水を、喉を鳴らしながらおもいっきり飲んだ。

「こんなに・・・煤を」
水を飲む総司をゆきは心配そうに見た。

「どこか痛めていないか、診せてください。」

「えっ?」総司は水を飲むのを止めてゆきを見た。
「はは、まるでお医者のような口調ですね」
凛とした口調のゆきに思わず出てしまった言葉であった。

「ゆき先生は、お医者はんや」勝太郎が言った。

「お医者・・・ですか。」

沖田総司の驚いた口調に、ゆきは少し照れくさそうに首を振った。
「いえ、まだ見習いです・・・けど」

「だから、せんせい・・ですか。
てっきり、子供達に手習いでも教えておられるのかと思っていました。」
沖田総司は濡れた口を袖でふき取りながら笑った。

「・・・あ、それもしてます。けど・・・だから、診せてください。」
近寄ろうとするゆきを総司は制した。

「さきほど吐き出してすっきりしましたから大丈夫です。 巡察の途中ですので、戻らないといけません。ではこれで」

沖田総司は、そばにいた隊士に向かって目で合図した。
有無を言わさぬ総司の口調にゆきはあきらめて、仕方なく勝太郎の被っている浅葱の羽織を総司に渡そうとした。その途端、勝太郎が震えだした。


・・・・そう、この子は、自分を守ってくれたものを
わかっているのだ。
そして、まだこれにくるまれている安堵感が必要なのだ。
そう思うと、先ほどまであれほど嫌悪していたダンダラの羽織が、何かしら別の物に見えてきた・・・

その姿を見ていた総司は、震える勝太郎の頭をやさしくポンポンと叩いてやった。

「いいですよ、これはしばらく、しょう坊に預けます。」
その言葉に勝太郎はおもいっきり笑顔を見せた。そして総司はゆきにささやいた。
 「この子が落ち着いたら、申し訳ありませんが処分しておいてください。」
いくら焼けて、もう使い物にならない隊服とて、子供に持たしておくわけにはいかない。
ゆきに燃して処分してもらおうと思ったのである。
ゆきは、こくんと頷いた。

「では、これで」沖田総司は、そう言い残してその場をあとにした。

ゆきと勝太郎はその姿を見送った。


だが、ことの顛末を一部始終、おもしろそうに見ている二人の男たちがいた。 一人は、遙か先を見通すかのような鋭い眼をした男。 もう一人は、ぎらぎらとたぎる眼をした男。