019|新撰組活劇「いつか何処かで〜沖田総司物語」|小説「志士」挿絵「志士」桂小五郎、高杉晋作イラスト

挿絵「幕末志士」桂小五郎イラスト

「久方ぶりに京に来てみれば、なかなか面白いものが観れたな」
二人の男は、芝居でも観ていたかのような口振りだった。

「もし、芹澤が止めなければ、あの男はやつを斬っていたと思うか」

面白そうにふくみ笑いを浮かべながら、男は連れの者に尋ねた。

「ああ、間違いなく斬っていたでしょうね、そんな眼をしていた。人斬りの眼を」
問われた男は、前を見据えたまま答えた。

「三日前、あの男に我々の大切な同志が斬られましたよ」

「ああ、腕の立つ者だったのに」男は残念そうにため息混じりに頷いた。

「人を斬ったその手で、子供を命がけで助ける・・・か、 おもしろい男もいるもんだ。一度、じっくりと話して みたいものだな。一体、どちらが本当のやつの姿なのか」

「狂気ですよ、その二つを持つ人間など。そんな相反す二つの心を持つ人間など、本物の狂気そのものですよ」

「ふふ・・・かもしれないな」

挿絵「幕末志士」高杉晋作イラスト

「しかし、新撰組はこれから益々手強くなるな、今回の事件は、会津は黙っていまい。
そして、これを機に新撰組は一本になる、狼の群が一匹の大将の下に団結する。 だがな、そう案ずることはない。狼とて飼い慣らされればただの犬となる、そう思わないか、晋作」

晋作と呼ばれた男は黙って頷いた。そして 一呼吸のちに尋ねた。

「しかし、犬にならぬ狼はどうしますか」

「あの男、沖田総司は、ならないというのか」

晋作と呼ばれた男は、もう一度頷いた。

「ならば・・・そうだな・・・土佐の以蔵なら、やつに興味をもちそうだな」

  「岡田以蔵、あの血に狂った人斬りですか。
狂気には狂気、人斬りには人斬り・・・ですか
相変わらず、怖い人だ・・・あなたは、桂さん」

桂と呼ばれた男は、それほどでもないよ・・・と笑った。

その時、突然、高杉晋作が咳き込んだ。
それまで不敵な笑いを浮かべていた桂小五郎の顔が一瞬曇った。

「どうだ、体の具合は・・・」

高杉晋作は、その言葉に首を振った。
「ま・・だ・・まだ・・・ですよ、新しい日本を見るまでは・・・ 桂さん、はやく・・・私に新しい日本を見せてくださいよ」

そういってまた咳をした。吐き出された痰には血糸が混じっていた。

「ああ、必ずみせてやる」桂はそう言い切った。
そしてその顔にはさきほどまでの薄ら笑いは消えていた。