027|新撰組活劇「いつか何処かで〜沖田総司物語」|小説「祇園山緒 切腹」挿絵「切腹」新見錦、沖田総司イラスト

そして、なんとか片膝で体をささえ、己の腹を突き抜けている脇指を握りしめた。
腹から湧き滴る血の中、嗚咽し、呻きながら叫んだ。

挿絵「切腹」切腹する新見錦イラスト 「土方・・・貴様が、三途の川を・・・わた・・る時は、
見物しにきて・・やる・・・ぞ」

・・・間違いなく自分は、深みを渡ることになるだろう
だが、この目の前にいる男とて行く先は同じなのだ・・・同じ深いところなのだ・・・

土方は、フッと目を閉じ、念仏のように呟いた。

「ありがたいね、だが、俺は泳ぎは達者だ。」

新見錦は、縦に刺す腹の刃を最期の力を振り絞り横に引いた。
  そして、それは傍らですでに介錯の立ち構えについている沖田総司への合図でもあった。

挿絵「介錯人」新見錦の切腹の介錯をする沖田総司イラスト

「やって・・くれ・・・沖田」

「介錯つかまつる、御免っつ」 新見がこの世で聴いた最期の言葉である。
皮一枚、そう新見錦の頭は、すでにその土台には、皮一枚だけで繋がっていた。
首を飛ばさず皮一枚残して落とす、沖田総司の介錯人としての技だった。
挿絵「血」イラスト
「ご苦労だったな」土方がすでに意志を失った新見の姿を見つめながら言った。

「いえ」総司は、刀に付いた血のりを懐紙で拭き取り鞘に収めた。 そして、土方に向きなおった。

「土方さん、一つだけ教えてください。
・・・芹澤さんも、天狗と繋がっていましたか」

土方歳三は、一呼吸おき、沖田総司を見据えた。

「いや、芹澤さんは、すでに水戸天狗党とは切れていた。この京に来た時は、すでに袂を分かっていた。
それは・・・間違いない」

「そうですか・・・繋がってませんでしたか」総司は、ほんの少し口元を緩めた。

「だがな、総司・・・」土方が、もう一度確認するかのように総司に向きなおった。

「いえ、それだけ・・・それだけ、知りたかったんです。」
それ以上は、無用と、土方の言葉を遮った。

「そうか」土方も総司の意志を確信した。
 
「十日後だ」 土方歳三のこの言葉は、ここ「山緒」での血の幕を降ろし、そして、つぎの幕開けを伝えた。