031|新撰組活劇「いつか何処かで〜沖田総司物語」|小説「独楽」

今度は弟が芹澤に「はい」と独楽を回すように催促した。
しかしそれを受け取ろうとした芹澤の手が震えだした。

「先生」総司が慌てて駆け寄った。

「ちょっと、お前達で回してみろ」
子供達に独楽を返し、総司とともに腰を下ろした。

「ふ〜〜〜っ」大きな溜息をついた。
「あれから・・・酒を何度か断ってみた。だが、暫くするとこうして・・・な」
そう言って小刻みに震える指先を総司にみせた。その指をジッと見ていた総司の目は、 芹澤のそれよりも悲しげだった。

「先生、水戸に帰って養生されては如何ですか」
その言葉に何の意味があろうか・・・
だが、その言葉に込めた想いも嘘偽りないものであった。

「わしに新撰組を離れろというのか。」
芹澤鴨の顔から先ほどまでの笑みが消えていた。沖田総司を睨んだあと、次にその目は無邪気に独楽で遊ぶ子供達にうつった。

「沖田、わしは、水戸におるときは、天狗党に骨を埋める・・・そう決めて同志たちとともに戦って来た。
暴れ回ってやったぞぉ〜っ
皆が皆我々を恐れた。そして我々も大きくなった。 だがな、ある日、同志たちがあのくらいの童を土下座せ、その頭を草履で抑えつけていた。 あんな幼い子供の・・それを見たとき違うと思った。
わしの目指すものはこんな連中とは違うっ・・・とな」

沖田総司は、黙って芹澤の話を聞いていた。
 
「沖田・・・あの時の子供は・・・どうした」

あの時の・・大和屋の勝太郎のことである。
「怪我なく無事でした」
総司は芹澤の不安げな声を励ますように晴れやかに答えた。

「そうか・・・そうか。」芹澤も嬉しそうに何度も頷いた。

「沖田、わしは水戸を捨てて、この京に来た。
そして、わしが目指すものを新撰組に込めた。
それは、おまえたちとて同じだろ。
わしは、この命ある限りは新撰組から離れんっつ」

その言葉に沖田総司は目を閉じた。

・・・そう、それが芹澤鴨の生き様なのである・・・

そう言い切ると腰を上げ、黄昏はじめた空を見た。
「沖田、あの夜の月を憶えているか・・・・」

酔った芹澤をおぶって帰る道のりでみた月である。

「はい」

「そうか、憶えていてくれたか、見事な月だったな・・・」

「はい」総司はただ、はい・・・とだけ答えた。

「どれ、梅でも芝居見物に連れて行くとするか」
そう呟きながら芹澤は、子供達の頭をなで去っていった。
子供たちが総司のそばにきて、兄のほうがそろそろ帰ると言った。

「いややぁ〜、あそぶぅ〜」弟がだだをこねる。

「あかん、じぃがゆ〜とったやろ、日暮れたら鬼がでるさかい、その前にお帰りゆ〜て」
そう言って弟の手を引いた。

「・・・そうだな、そろそろ鬼が出るな・・・」
総司が黄昏る空を眺めて呟いた。 挿絵「黄昏時」