033|新撰組活劇「いつか何処かで〜沖田総司物語」|小説「島原角屋 宴」挿絵「水盃」沖田総司イラスト

髪も濡らさぬほどの小雨が、日暮れとともに大粒の雨とかわった。
だが、一夜限りの男と女の夢床となる花街から溢れる情気は、雨音さえかき消す。
島原でも指折りの揚屋、「角屋」でも、男達の威勢のよい笑い声と芸妓たちの艶やかな唄声が聞こえてくる。
隊費から算出された金で行うこのような宴席は、「会合」とは呼ばれているが、新撰組幹部による太夫、芸者たちをはべらす酒盛りである。

  そして、この日の宴には、会津公より新撰組のこれまでの働きに 報奨金が出たとして、いつにもまして酒も女たちも極上のものが用意されていた。
ここ暫く酒を控えていた芹澤も近藤勇の酌をうけ、上機嫌でグイグイと飲む。
あたかも乾き干からびた田に、雨水がしみ込むように喉をならしながら飲む、そして女を引き寄せ頬をすりよせる、
そしてまた酒を飲む。 土方歳三は、平山に酌をする。すでに平山は酒と女のおしろいの匂いによっているようだ。
他の幹部連中もこぞって酒を酌み交わしている。

沖田総司も酒を飲む・・・一杯・・・そして二杯と。
試衛館にいた連中は酒には強い、そこで育った総司もまた笊である。
二合、三合の酒では酔わない・・・いや、酔えないのだ。
酒は酔うからこそ気持ちがよくなり、それを旨いと感じて飲むものだと思っていた。
だから、酔えない自分は、酒を旨いとも思わない・・・自分から飲むこともない。
そんなことを考えながら、ただ、見ていた。機嫌良く酒を飲む芹澤鴨を。
ただ、うつろな目でぼんやりと眺めていた。そして、旨いともおもえぬ酒に口をつけた。
さもあろう
土方歳三、沖田総司、井上源三郎、永倉新八、原田左之助の酒は、すでに水にすり替えられていたのである。

挿絵「水盃」物憂げに酒を呑む沖田総司イラスト

地面に叩きつけるように激しく降っていた雨が、再び霧雨となった。
酉の刻も過ぎた頃、飲み足りぬ者たち、場所を替え酒を飲もうとする者たち。
芹澤は、屯所に戻り飲み直すと平間たちに告げた。梅の顔が恋しくなったのであろう。
「沖田っ、おまえも 一緒にこいっつ」

  ・・・いつものことか・・・
平山たちが顔を見合わせた。
部屋の片隅で、女達の酌もうけずに飲んでいた沖田総司を呼び寄せる。
総司は黙って立ち上がり、芹澤の後につこうと部屋を出た。
微かに土方の囁きが聞こえた。


・・・俺と原田が後を付く・・・・
・・・躯は屯所に運ぶ

返事の代わりに総司は薄く目を閉じた。
めいめいが籠に乗り角屋をあとにする。芹澤は、酔えば一層わがままになる。それは皆が覚悟していることではあったが、小雨になったとはいえ、例のごとく籠を止め、誰か自分をおぶって帰れと言い出した。