046|新撰組活劇「いつか何処かで〜沖田総司物語」|小説「帰路」挿絵「わらべ唄」沖田総司イラスト

「見事だった。」
土方歳三は、芹澤鴨の脱ぎ捨てた羽織を、その息絶えた体に被せよとしている。
沖田総司は、ただ黙って、それを見つめていた。

ぽとっ
何かが羽織の袂よりこぼれ落ちた。

「なんだ、なんでこんな物が・・・」原田左之助が怪訝そうに拾い上げ、土方歳三に見せた。
それを見た沖田総司の顔が歪んだ。
それは、小振りの独楽だった。
酔狂な芹沢のことである、芸妓との遊びにでも使おうとしていたのであろう。
土方は、そう考えて独楽を放り投げようとした。

「・・・それを・・・私に頂けませんか・・・・」うつむき、唇を噛み締めながら、総司は土方の腕を制した。

土方は、その様子に「この物」が何を意味するのか察した。
そして、それを総司に渡した。
総司は、それを大切そうに懐に納めた。

「原田、屯所まで運ぶぞ。」土方が原田に指示する。

「私が・・・私が連れて帰ります。
・・・ここまで、連れて来たのも私ですから・・・
私が、芹澤局長を屯所に連れて帰りますよ」

土方は、総司のその申し出にも無言で許可した。

「これを着ろ、そのなりでは・・・な」 そう言って、自分の羽織を、総司の血まみれの着物の上から はおるように促した。
土方歳三と原田左之助が手を貸し、沖田総司は芹澤鴨を背負った。

「原田、先にいけ、一人も逃がすな」土方の言葉に原田は、踵を返し、屯所に向かって走った。

「土方さんも行ってください。
すぐに、私も追いつきます。」

総司は、肩を少し持ち上げるようにして芹澤をおぶり直した。

月を覆い隠した雲は、湿り気を帯びた風を送り込む。
その風は、生を失った芹澤鴨の体から、少しずつ熱を奪う・・・・
だが、沖田総司の懐に忍ばせた独楽は、温かかった・・・・
あたかも芹澤鴨の体温が、独楽に移っていくかの如く・・・・
土方歳三と原田左之助の影が遠のき、沖田総司もまた、芹沢を背負いながら屯所への道を歩き始める。

静かだった。

「・・・ぼんさん ぼんさん・・・何処行くの
あの山越えて・・お使いに、わたしもいっしょに連れてって
おまえが来ると・・・・邪魔になる
このかんかんぼ〜ず、かんぼ〜ず
後ろの正面・・・だぁあれ・・・」

子供たちから教わったわらべ唄、鬼遊びの唄。
この京に来て、初めて覚えた唄である。
その唄が、ふっ・・・と口から漏れてくる。
そして、鉛色の雲は、雨を落としはじめた。

挿絵「わらべ唄」わらべ唄を口ずさみながら雨の夜道を歩く沖田総司イラスト
挿絵「わらべ唄」わらべ唄を口ずさむ沖田総司イラスト