059|新撰組活劇「いつか何処かで〜沖田総司物語」|小説「橋畔」

梅の花の蕾も、まだ堅い二月、
芹澤先生の意志に従い、我らは浪士隊に加わった。
だが、日々の糧に窮した浪人共と同じ扱いを受けたことに、最初から先生は、ご立腹されていた。
故郷を離れようとも、芹澤鴨を筆頭に我々は武士であり、無頼の浪人とは格が違うのである。
その憤りが、芹澤先生を苛立たせ、中山道の道すがら幾度となく悶着を起こす羽目となった。
そして、江戸を出立して三日目の本庄の宿場でのことである、宿の手配をすべき先番役割が、我らの宿の手配を怠り、芹澤先生は、怒り狂い、その激しさを見せ付けるように往来で大篝火を焚いた。
飛び散り、舞う火の粉に宿場の役人も恐れ、我々に手を出そうとしなかった。
だが、突然、芹澤先生の前に進み出、膝を着き、平伏した者がいたのである。
宿割りの任をまかされていた近藤勇という男であった。
近藤は、試衛館とかいう多摩の田舎道場の連中を引き連れての入隊とのこと、所詮は侍の作法も知らぬ百姓連中と、気にもかけぬ輩であった。
その近藤勇が非礼を詫び、猛り狂う篝火の前で土下座し、芹澤先生の許しを乞うているのである。
なかなか滑稽な姿であった。そして、近藤を追い、その後ろに従い、同じく芹澤鴨に向って土下座した若者がいた。
道中、試衛館の連中の中で、いつもへらへらと笑っている男であった。
近藤、土方と同じく百姓上がりか、武士かよく分からないやつだった。
その沖田総司とかいう若造が、近藤と共に平伏している。
だが、芹澤鴨の怒りは収まらず、近藤勇の肩を鉄扇で打ち据えた。

しかし、微動だにしない近藤に向って、芹澤先生は刀を抜こうと鍔に手をかけた。
だが、その時、それまでうつむき平伏していた沖田総司の眼が、我々に向けられた。
その眼は、水戸の豪傑芹澤鴨の動きを止めた。我々も凍りついた。
いつの間にか、二人の背後で鯉口を切っている試衛館の連中の気迫でなく、この若造の眼力に、動きを止められたのである。
沖田総司の眼は、芹澤鴨に告げた。

  「主、近藤勇に刃を向ければ何人なりとも、斬る」と

芹澤鴨が焚いた大篝火の紅蓮の炎ではなく、沖田総司の眼に燃える炎は、射る程の冷たい蒼き炎であった。
それ以来、芹澤先生は沖田総司という若者が、気に入ったようであった。
剣客として惹かれるものがあったのか・・・
だが、自分は違う懸念で沖田総司に気を向けていた。
いやそうではない、
そう、自分は、その時から今日に至るまで、この沖田総司の底知れぬ恐ろしさに、怯えていたのかもしれない。
いつか、己に向けられるかもしれぬ蒼き炎に・・・

そして今、まさにあの時の底知れぬ炎を揺らめかせた眼が、自分に向けられていた。

平間重助は、沖田総司に向けて正眼の構えに刃を向ける。
そして、沖田総司は鯉口を切り、鍔を押しながら、抜き打ちの間合いを計るように歩を進める。
その動きは、まさに獲物を追い込む狼であった。