066|新撰組活劇「いつか何処かで〜沖田総司物語」|小説「一刀流 斎藤一」

意志を失った平間重助の体は、橋の柵にもたれ掛かり、そして吸い込まれるように、其の身を川に落とした。
男は、血糊のついた刃を懐紙で拭い、平間をのみ込んだ川にそれを投げ捨てる。

「沖田、久方ぶりだな」
濁流にのみ込まれる拭った懐紙を見ているのか、それとも・・
男は、川を眺めながら総司に挨拶をした。

「いつ、京に着いた・・・斎藤」
沖田総司もまた、流木のように浮き沈みながら流される平間を見る。

「一刻ほど前だ。夜半に御無礼とは思ったが、まずは近藤先生に御挨拶をせねばと、
遅参したお詫びと、そして正式なる入隊のお願いに伺ったのだが、
何やら屯所が騒然としており、近藤先生がおっしゃるには、
『会津藩御預かりのこの新撰組屯所内に、不逞の輩が入り込み、
只今、手分けして追捕に向っている』とのこと
私にも、新撰組隊士としてその任に就くようにと、そして先生は、こうも私に命じられた。
『捕縛の必要なし、見つけ次第斬り捨てよ』と」

斎藤一は、淡々と沖田総司に自らの行動の経緯を説明した。

斎藤一、食客として其の身を試衛館に置き、沖田総司とは互いに剣の腕を競い合った。
沖田総司と斎藤一との稽古試合には、近藤勇、土方歳三でさえ鳥肌が立った。
凄まじき速さと、技が目の前で繰広げられるのである。
沖田は斎藤にならば、力の加減をせずにその速さが出せ、
そして斎藤一は、沖田総司にならば、己が会得してきた技を存分に向けることができた。
剣の天才同士ならばこその、力と力のぶつかり合い、それを眼前で見せられる、いや、見ること叶うことに試衛館の面々は感嘆したのである
。 そして、斎藤一と沖田総司は友であり、剣客として互いに尊敬すべき者同士であった。
試衛館を挙げての浪士隊参加の際、斎藤も共に加わるものと道場主近藤勇をはじめ、試衛館の皆が確信していた。
だが、斎藤は皆と行動を共にしなかった。

「片付けねばならぬことが故郷にあり、すべてにけりをつけ、必ずや京に、近藤先生のもとに馳せ参じます。」

そう近藤勇に誓い、沖田総司に「ともに京で戦おう」と言い残し、只一人で江戸を去ったのである。
そして、其の斎藤一が京に現れたのである。以前にもましての眼光のするどさ、そして其の剣の腕に磨きをかけて

「あれは、新撰組隊士ではあるまいな」
一分の感情すら持たぬ声色で、平間がのみ込まれた川を眺めながら沖田総司に尋ねた。

「さあ・・・もう流されてしまった・・・」総司の呟くような言葉が斎藤に返される。
平間重助の体は、石礫のように小さく遠く流れていった。
「そのようだ」斎藤一の其の言葉を幕引きとし、二人は橋を降りた。