007|新撰組活劇「いつか何処かで〜沖田総司物語」|小説「妖花」

若さ、熱気、そして男としての本能・・・そんなものが溢れかえっている新撰組の屯所の中で、梅は隊士たちの心かき乱す存在だった。
自分への隊士達のなめるような視線・・・心地よいものである。
芹澤の酒浸りの樽のような体には、満足しきれていない梅にとって若さ溢れる肉体をもつ隊士たちは、ある意味魅力的だった。
自分は何と言ってもこの新撰組の筆頭局長、芹澤鴨の女である。その芹澤もすでに自分に溺れきっている・・・言うがままの操り人形・・・傀儡となっている。

「うちに夢中にならん男なんて、この新撰組にはおらん」
そんな奢りがお梅の中にはあった。
獲物を狙う牝の眼をしながら梅は、隊士たちを物色した、というよりもすでに目をつけている若い隊士がいた。

「あんひと・・・ええなぁ・・・うちの好みの男前はんやし」
お梅は、近所の子供達と無邪気に遊ぶ総司を妖しく見つめていた。

  「うちもお仲間にいれとくれやす・・・」
梅が総司の傍らに来ていた。 子供達は、敏感なものである、圧倒するような色香をふりまく梅に少し怯えていた。

「いいですよ」
普段と変わらぬ笑顔で総司が答えた。

・・・・ふふ・・・こんひともすぐに堕ちよるし・・・

  梅の眼に妖艶な炎がゆれる。

「沖田はん、あっちで二人っきりでお遊びしまへん。」
子供達がいるのも無視して、梅が総司の懐にまとわりつくように、白い手を潜りこませた。

「なぁ・・・」
手から伝わってくる総司の若く引き締まった体にぞくぞくした。
それを伝えるかのように首筋に艶やかな唇をはわせた。
いつもならこうすれば大概の男達は、その気になる・・・うっすらと目をあけて総司の顔を見た。
だがその先には、眉一つ動かさぬ男の自分を見下す冷ややかな視線だけがあった。

「気がすみましたか。」
屈辱的な言葉が梅に投げかけられた。
その時、子供の一人が梅の着物に触った。芹澤にねだって仕立てさせた絹の着物に。
「汚い手で触らんといてっつ」

パーンッ

梅の平手が子供の柔らかな頬を打ち据えた。
恐怖と痛みに泣き出す子供を、苛立ちまぎれにもう一度殴ろうとした。

「いっ、痛いっ」
お梅の白く美しい腕が容赦なくねじ上げられた。

「いいかげんにしていただけませんか」
先ほどまで自分を冷ややかにみていた男の眼が、今度はすくみあがるような殺気を帯びた眼に変わっていた。
そしてやっとその時、梅は平山たちに言われたことを思い出した。

  試衛館の連中には関わるな・・・と言われていたことを。

自分の思い通りにならぬ男がいる・・・
お梅にとって歯がゆくてならなかった。
だが、あの沖田総司の眼を思い出すといまだに身震いする。
自分を蔑んだ眼でみた男、女へのいたわりすら微塵も感じさせぬ冷酷なまなざし・・・そのとき捕まれた手首に残る痣は、ほんの少しずつ薄れている。
梅は、自分の白い腕に残る青痣に頬をすり寄せた。
自分の美しい腕にこんな痣を残した男・・・許せない。

あんな男・・・でも・・・
梅は、その痣に口づけをした。
恐怖と愛憎・・・そんなおもいが、梅の中でとぐろをまいて外に這い出そうとする。このままではこの身が焼けついてしまいそうである。
梅は剥け口をもとめた。
自分にすりよってくるこの芹澤では、この焔(ほむら)を消すことはできぬ。
もっと・・・せめて、沖田総司と同じぐらいの・・・総司を思わせる男でないと。

たぎる想いに、梅は身悶えた。