008|新撰組活劇「いつか何処かで〜沖田総司物語」小説「怒涛」挿絵「月夜」満月イラスト

  増田五郎、永倉新八の隊に配属されてまだ二月しかたっていなかったが、その真面目さと素直さを永倉は非常に気に入っていた。
永倉新八自身、まわりからみると生真面目 一本やりの男なのである。 おそらく相通じるものがあったのであろう。 隊務がないときなど永倉は、よく五郎を呑みに連れていくのである。

  「よしっ、五郎このあと一杯いくぞっ」

  「はいっ、おともしますっ」
そういって増田も喜んでついてくる。
そんな増田の様子がこのところおかしい、浮ついている。なにやらボ〜ッしていることが多くなった。

  「五郎どうした・・・さては夢中になる女でもできたか」
永倉が『かま』をかけてみた。

「あっ、いえ・・・そんな・・・」
増田は必死に汗を拭い、目を伏せた。
図星のようである。

「五郎、女はいいもんだ、俺たち男にとっては、必要だからな。
だが、ま、へんな女にはひっかかるなよ、
俺がいいたいのはそれだけだ」

そう言って、増田の肩を気合いをこめて一発たたいてやった。
増田はまだ二十一歳になったばかりである、女にも恋にも夢中になりやすい年頃である。 それにこの実直な男がよこしまな恋に堕ちるはずはない・・・そんな確信が永倉にはあった。

だが・・・まさかその相手が・・・・。


り〜ん・・・・り〜ん・・・・
 
  あれほど我先にと鳴いていたかわずも、夜の舞台を秋虫に譲ったようである。 夏が終わり、秋が来ることをつげているのであろう。
そんな夜空に浮かぶ月もさきほどより雲に隠れている、秋虫たちのすずやかな鳴き声の中にまじり、しめっぽい男女の声が聞こえてくる。
八木邸の離れにある藏のその影にある納屋からである。
月にかかっていた雲がしだいにかすれはじめ、蒼白い月が闇夜の秘め事を映し出す。
納屋の格子よりもれる月の光りに照らしだされたのは、魂を抜かれたかのように恍惚とした増田五郎の姿であった。
そして、月は男と絡みあっている肌を露に乱れた女の体も映し出す。 お梅の艶やかな白い肌を、乱れた息を吐きながら増田は、梅の撓わな乳房に顔を埋める。
梅はそんな男の頭を撫でるようにだきしめる。
だが梅の眼は今こうして目の前にいる・・・自分の体を夢中に貪っている男に注がれていなかった。
梅の眼は妖しく輝きながら格子よりみえる月に注がれた・・・そう・・・こうして今自分を抱いているのは、増田五郎という一介の新入隊士ではない、沖田・・・沖田総司が、今、自分を夢中になって抱いているのだ・・・・
梅は、眼を閉じ総司の姿を脳裏に浮かべた。

満月イラスト

二人の逢瀬は幾夜となく続いた。

「うちは、無理矢理どしたんえ・・・
無理矢理・・・芹沢はんに・・・うち・・・
あんひとが恐ろしいて・・・そやから・・うち・・・」

梅は増田の胸にしなだれかかりながら泣いた。
そうに違いない。あの芹澤鴨という男なら・・・
増田に梅の涙ながらの訴えに疑問など持つはずもなかった。
そして、自分の胸にしがみついて涙する梅を一層愛おしく思うのである。

・・・このか弱き女性を助けてやらねば・・・・

増田五郎の中で「芹沢から梅を助けるのだ」という思いがしだいに強くなっていき、 そしてついに増田は梅に告げた。

「お梅さん、私と一緒に逃げようっ
芹澤局長のいるここを出て、どこか遠くで私と一緒に暮らそうっ」

  増田の命をかけてのすべてを投げ打った梅への愛情の告白であった。

梅はしばらく増田を凝視した・・・増田は梅が「喜んでくれる」そう確信していた。
喜びのあまり驚いて声も出せずにいるのだと、
自分たちは愛し合っているのだから。

だが梅の唇から放たれた言葉は、増田五郎を奈落の底に突き落とした。

「なんで、うちがあんたなんかと逃げなあかんのえ。」
興ざめした眼で梅は増田を一瞥した。
                 「いやや、いやや、これやから東男(あずまおとこ)は、興がのうていやや」 梅はほつれた髪を整えながら言った。

息さえすることも忘れ、立ちすくむ増田に振り返ることもなく 梅は二人が甘い夜を過ごした納屋を出ていった。