009|新撰組活劇「いつか何処かで〜沖田総司物語」|小説「怒涛」

 増田五郎の亡骸を最初に見つけたのは永倉新八と総司だった。 増田は永倉あてに自分の愚かさを、そして永倉への世話になった 感謝の念を書いた遺書をしたため、永倉の部屋に置いてからの切腹だった。
介錯なしの切腹がどれほど悶絶し、のたうち回ってからの絶命か、増田五郎の遺体がそれを如実にかたっていた。

そして増田の血にまみれた人差し指の先には
・・・『愧』・・・
という文字が、床に血で書かかれていた。

「・・・あの・・女だ・・・」

「えっ?」
かすかに呟く永倉の言葉を総司は聴きなおした。
言葉で返す代わりに永倉は総司に増田の遺書を突きつけた。
そこには、増田の震えながら書きしたためたであろう文面に、己のような慚愧(ざんき)に堪え難き者が、この先で死なぬよに・・・梅という女には重々用心されたし・・・ そう書かれていた。
総司は、梅との出来事を思いだした
。 まさか・・・あの女は増田五郎を身代わりにして弄んだのか
・・・自分の・・・代わりに・・・
まさか・・・
「あの女っつ
ゆるせんっつ」

  そう叫ぶと、仁王のようにカッと眼を見開いた永倉は、刀の柄に手をかけながら走りだした。

「永倉さんっつ」

永倉が何をしにいったのか・・・わかりきっていた。
総司は苦悶の表情の増田の亡骸に手を合わせた。

「増田さん、今は止めさせていただきます」

念仏を唱えるかのように呟いた。そして、総司は永倉を追って走りだした。
走りながら総司は履いていた下駄を捨て、刀の鞘と帯を結束している下緒をほどきながら走った。
永倉の姿が見える。 そしてその先には梅がいた。

運良く、悪く、どちらともとれるように梅の姿がある。
芹澤を送り出した後らしかった。

 「この魔物めっ」

仁王のように青筋をたて眼を怒らせた男が、自分に向かって刀を振り下ろそうとしている。 梅はしゃがみ込み、必死に後ずさりしようとしている。
まさに永倉の刃が、梅めがけて振り下ろされた時、

ガッキーン

刹那、永倉の刀と総司の帯から抜き取られた鞘がぶつかりあった。
総司は、刀を鞘から抜き取らず、霞の構えをもってして、永倉の怒りの刃を受け止めた。

「どけっ、沖田っつ」怒りに狂った永倉が叫ぶ。

「退いてくださいっ、永倉さん、
今ここでこの女を斬ったら、あなたも切腹になりますっ」

永倉を鎮めようと総司もまた必死に叫ぶ。

「腹ぐらい、この魔物を斬ったあとで切ってやるっ」
永倉の刃が容赦なく総司の鞘を押す。

「だめですっ、永倉さんっ、退いてくださいっつ」

永倉の怒りを受け止めている鞘が押され始める。